
(Elektra Nonesuch/CD)
グレツキ作曲による単純性に回帰した系統の、1976年の作品。現代音楽においてのスペクトル学派や新しい複雑性と称される音楽に比すれば、その姿勢は退行的であるとも取れようが、東欧らしくも暗く美しい、ミニマリズム的ですらあるシンプルな旋律が、女声ソプラノに導かれるようにして飽和を迎える第一楽章の、心の琴線に触れる展開は何度聴いても落涙ものである(一時期のFaustは、頻繁にこの楽曲を引用していた)。元々彼はセリー音楽を経由し、やがて前衛性への懐疑から調性に立ち戻ったとされるが、このベストセラーとなったDawn Upshaw参加の録音(1992年)は、その変化が彼の真摯な音楽技法遍歴においての必然であったと証明するかのようである。モダニズム的な歴史の視点から見ればこれは退行であるが、個人の歴史とそこにおける変化の必然性の視点から見れば、何ら否定されるものではあるまい(嫌らしいポストモダン的風潮に毒されず、個人の宗教心を動機としている点においても)。